二酸化炭素消火設備の誤放出による事故について|原因と対策を現役消防設備士が考察

消防用設備

2021年4月15日に東京都新宿区のマンションで発生した二酸化炭素消火設備(以下、CO2設備)の誤放射事故により、尊い人命が失われた事は記憶に新しいかと思います。

この事故が発生した原因と今後の対策を現役の消防設備士が考察していこうと思います。 

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事故の概要

この事故はマンションの地下駐車場において天井の張替え工事中に突如CO2設備が作動して、現場で作業していた作業員4人が死亡、2人が負傷という痛ましい事故が発生しました。

原因の一つと考えられているのが天井張替えに伴い、CO2設備用の感知器(熱感知器と煙感知器がある)を外したりした際に誤作動(配線のショートや静電気など)が起こしたのではないかと推測されていますが、詳しい事は調査中とのことです。

この工事に際して現場に消防設備士などの有識者の立会いはなかったとのことですので安全対策が取られていなかったのではないかとの調査も行われています。

 CO2設備とは

CO2

では誤放射したCO2設備ですが、どのような設備になっているか確認していきましょう。

CO2設備は、火災発生した時に火災に向けて二酸化炭素を放射して空気中の酸素濃度を低下することにより燃焼を抑制して消火する設備です。電気火災にも適用でき、消火後の汚損がないことが利点です。

二酸化炭素が充満した室内の二酸化炭素濃度は約20%にもなるとのことで、大気中の二酸化炭素濃度の500倍にもなります。

ちなみに二酸化炭素が人体へ与える影響として(東京消防庁資料より抜粋)

  • 大気中…おおよそ0.04%(400ppm)
  • 締め切った車内…約0.5%(5000ppm)
  • 頭痛や脳貧血を引き起こす…約1~4%(10000ppm~40000ppm)
  • 意識不明状態になる…約10%(100000ppm)
  • 窒息死…約25%(250000ppm)

上記の資料からも二酸化炭素消火設備が放射されれば窒息死してしまうのは避けられない事態となってしまいます。

では二酸化炭素消火設備の作動条件を確認して誤放射への対策を考えてみましょう。

CO2設備の作動条件について

では、CO2設備が作動してしまう条件として

  1. 専用感知器が2系統(熱感知と煙感知)作動すると設備が起動して放出
  2. 専用押しボタン(起動装置)を押すと設備が起動して放出

このような条件になります。

今回の事故は1.の条件により誤放射してしまったと推察されています。

細かく説明すると、1.の条件は2系統ある感知器の1系統だけ作動したとしても設備は起動せずに放射しませんし、おおもとの本体である制御盤で感知器作動の復旧操作(正常監視状態に戻る操作)をすれば2系統目の感知器がそのあとに作動したとしても放出しません。要するに1系統目が作動した時に誰かが気づいて制御盤を復旧していれば事故にはならなかったと思います。

2.の条件は、CO2設備の当該区画の入り口に赤い箱で「手動用起動操作箱」というものがあり、人がその箱の扉を開いて中の起動ボタンを押すことにより設備が起動して放出します。

この場合は人間が火災を発見した場合に押すというスタイルになっていて、万が一間違って押してしまっても非常停止ボタンというものも起動ボタンのすぐ横に設置してありますので、すぐさま非常停止ボタンをおせば設備の起動を停止できます(下記写真参照)。

二酸化炭素は密閉で放射される

このCO2設備はただ火災に対して二酸化炭素を放射するだけでは空気(大気)と混ざってしまい十分な消火効果が得られないので、二酸化炭素を限定的に放射する仕組みを用いています。

これは二酸化炭素を放射する部分を密閉空間状態にしてから二酸化炭素を放射する仕組みになっていて、火災現場を密閉して二酸化炭素による火災抑制効果を最大限発揮するように設計されています。

今回の事故でも二酸化炭素が放射される前に出入口のシャッターを閉鎖して密閉空間を形成する設計になっていたため、中にいた人がこの密閉空間から避難できなくなってしまいました。そこへ二酸化炭素が放射されたために今回の痛ましい事故になってしまいましたが、万が一閉じ込められたとしても避難ができる避難口があるはずです。

今回の事故ではこの避難口について作業者が知らなかったか、作業場所と避難口に距離があってたどり着けなかったかのどちらかではないかと思います。

また、CO2設備の区画となっている部屋の入口には必ず下記のような注意書きがありますので、この銘板を見かけたらCO2設備があるんだなと思ってください。注意書きにもあるように、二酸化炭素の放射が始まる前には音声による警報で知らせるようになっています。

ではこれらを踏まえて誤放出事故を防ぐ対策を確認していきましょう。

どうすればこの事故を防げたのか

ではCO2設備の誤放射防止の対策を考えていきましょう。

CO2設備には点検や工事中の誤放射による事故を防ぐ目的で「閉止弁」というものが付いていて、その閉止弁を閉めておけば万が一設備が起動しても閉止弁で二酸化炭素がストップして放射されなくなりますので、私たちも点検等行うときは必ずこの閉止弁を閉めて対策しています。

他にも電源を落としておくなどの対策がありますが、これには停電が発生したときでも設備に電気を供給できるように非常用電源が設置されており、その非常用電源との絡みがあることから有識者(消防設備士など)でないと電源の安全な切り離しや停止が出来ませんので素人はむやみに触らないほうが良いかと思います。

今後の課題として

これまではCO2設備が設置してある建物で工事等を行う場合には有識者(消防設備士など)を立ち会わせて安全措置を講ずるように規定はありましたが、あくまでも努力義務であったため、予算の少ない現場や会社だと立会い費用がかさむという理由から立会いさせずに工事等を行うというのが横行していました。

ですが今回のような事故が起きてしまった為、消防庁でも関係機関へ通達を出して注意喚起及び履行徹底を指導しています。

1 二酸化炭素消火設備が設けられている付近で工事等が行われる場合は、誤作動 や誤放出(以下「誤作動等」という。)を防止するため、第三類の消防設備士又 は二酸化炭素消火設備を熟知した第一種の消防設備点検資格者が立ち会って監督 を行うことにより、必要な安全対策の管理がなされる体制を確保すること。

2 二酸化炭素消火設備が設けられている付近で工事等を開始する際は、その都度、 当該工事等の従事者に対し、消火剤が放出されないよう閉止弁を閉止する等の措 置を講じた上でなければ当該工事等を開始しないなど、必要な安全対策の内容に ついて説明し、当該安全対策の確実な履行を徹底すること。

令和3年4月15日付 消防予第187号通知より

また建設業界でもこの事故を重大視していて、元請業者に安全措置として有識者を立ち会わせるような動きになっていますのでこれからはこのような事故は無くなると思います。

最後に

今回の事故を受けて某SNSではCO2設備のことを「殺人設備だ」などと書き込みがあったりしますが、きちんとした安全対策を講じないでこのような事故が起きてしまえばこのように言われても仕方ありません。でも元請や作業者がちょっと気付いて有識者を呼んで安全対策を講じれば何もこんなことを言われずに済みます。

もちろん有識者が停止するから安全対策であって、素人が止めては安全対策にはなりませんから注意しましょう。ちなみに有識者=資格保持者というのではなく、有識者=設備精通者という意味ですので、「君は消防設備点検資格者免状もってるから停止できるよね?」と経験の浅い者に指示するというのは意味が違うのでこちらも注意しましょう。

今回起こってしまった事故のように二酸化炭素消火設備には危険性はあるため取扱いに注意は必要です。しかし、正しく扱えば電気室や駐車場などの特殊な場所での消火設備として大きな力を発揮します。多くの人が二酸化炭素消火設備の正しい知識を身につけることも、このような事故を防ぐきっかけになるのではないでしょうか。

二酸化炭素消火設備を含む不活性ガス消火設備について解説している記事もあります。併せてご覧ください。

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